Lhurgoyf
2004年1月4日付き合っていた彼女がいる。今はもう結婚して、二人も子どもがいる。別れてもう8年にもなる。一生つきまとう彼女の面影とぬくもりを抱えながらこれからも生きていかなくてはならない。
彼女はもう俺のことは忘れてしまっているだろう。やさしい旦那にかわいい子どもたち。そんな幸せな家庭が目に浮かぶ。けれども、旦那は俺じゃない。俺の知らない、どこかの誰かだ。
彼に非があるわけではない。もちろん彼女の子どもたちにも無い。彼女にも無い。そして、俺にも無い。けれども、この自分の記憶という存在が、いつまでも、・・・そう、死ぬまでつきまとってしまうのだろう。それが悪だとするのなら・・・・俺自身も悪だ。
楽しかった思い出は美化されるというが、そんなことは無い。いつも不安だった。楽しんでくれてるだろうか?つまらなくさせてないだろうか?気持ちよくさせてないのではないだろうか?他の誰かに身体を委ねてはないだろうか?
俺が知らないだけじゃないのか・・・・それじゃ俺が道化だ。
それはすべて自分の自信の無さからくるもの。昔の俺は自信があった。今の俺には自信が無い。昔の俺は自信の塊だった。怖いものなんて無かった。自分のことが大好きだった。今の俺は自信が無い。怖いものはそんなには無い。自分のことが嫌いでもない。・・・やっとここまでこれたんだ。
2・3年前の自分。俺には価値が無かった。価値の無い俺だった。誰からも必要とされない、存在すら認識されていない。ただただ、生きるために寝て、起きて、何かを食べて、寝るだけの生活だった。何もする気は無かった。心は無限大だとはよく言ったものだ。元気があれば何でも出来るとはその通りだ。心が極小まで縮まれば、人間は何もしない。元気が無ければ、なんにも出来ない。極小の自分、惨めな自分、哀れな自分、必要とされない自分。・・・反吐が出る。
その屍たちを乗り越えて、今を生きて行かなくてはならない。「人生には無駄な時間は無い」とはよく言ったものだ。確かに、今、その記憶は俺をそうさせないように突き動かすためだけに存在している。駄目人間からの脱却。それが一番の願いだ。今は脱却されてきてはいるが、そうなるとまた「彼女」の存在が目を覚ます。
正確には彼女ではない。俺の中にある「彼女」という存在が、俺を苦しめる。
心は無限大だ。広がれば広がるほど何かをしようと考えるし、体も動く。積極的に何でもやっていきたいが、いつもどこかで歯止めがかかる。出し切れない自分。飛び出せない自分。すべては俺のせい。思い出を喰らうLhurgoyfの俺。
決して屍(思い出、今まで生きてきた軌跡?)たちはムダではない。そのために俺が存在するし、連続する屍たちの誰かがいなくなったとしても、今の俺は俺でなく、俺は存在しないことになる。屍たちの連続が俺であり、俺は千の屍たちの上に立っている。
つまり、俺がLhurgoyfだ。
今は正直に気持ちが伝えられる。今まで恥ずかしくて、情けなくて、そんな自分を認めるのが嫌で、嫌で、無視し続けてきた。俺は俺の屍を無視してきた。あまりにもむごたらしい屍に、目を背けていた。誰かに助けて欲しかった。でも、誰も助けてはくれない・・・認めてもらいたかった。何も持たずに、何を認めてくれるのか?「君は君でいいんだ」なんて・・・言って欲しかったのかもしれない。うわべだけでない、本気で。今は言えない。教師として言いたい言葉だが、とても言うことが出来ない。俺は俺でいいとはとても考えられないから。
好きだった彼女を、好きで好きでたまらなかった彼女を、失うのが怖くて、盗られるのが怖くて、震えて、ビビッてた。勝手に妄想を進めていた。真偽は分からない。分からないから俺を苦しませる。罪の無い彼女を、俺は疑って、責めて、首を絞めて、置き去りにしたのか。たとえ、罪があったとしても、それは彼女の自由で、他の男と寝たかったのかもしれない。その頃の俺には余裕なんて無く、少しでも疑う余地があれば疑い、そして、それが本当かどうかなんてとても聞けなかった。「お前は他の男と寝たのか?」なんて
・・・自尊心。プライドだけはある俺だ。聞けない。知りたくない。失いたくない。彼女を、尊厳を。ゆとりなんてさらさら無かった。彼女がすべてだった。失うことはどうしても避けたかった。怖かった。だから、彼女を憎んだ。
別れたのは、電話でだった。「別れたいの?」と泣きながら言われて、風邪をひいていた俺はすぐに取り戻せると思って「そうかもな」と答えた。それで終わりだった。実際は、「お前が別れたがってんじゃん」とせせら笑っていた。
他に男がいるんだろう? 寝たんだろう?誰もかれも信じれなかった。
その後、手紙が来た。決定的だった。「身体ばかりを求めるあなたが嫌いだった」俺は・・・怖かったんだよ。お前を失うのが怖くて、怖くて、必死で、子どものように、お前を求めた。
手紙も出さない。電話もろくにしない。金が無かった。寮もウザかった。色々なことがのしかかっていた。
・・・お前の日記を見てしまったときから、俺の何かが狂い始めた。盲目的に、今前にいるお前を信じていたが、本当のお前は、別の他の男に、キスをされ、SEXをしていた。「俺だけじゃなかったんだ」 そのときから、俺は終わっていたのかもしれない。
そのときだ。
今分かった。
その時の衝撃が、今の俺を作っている。
初めて手に入れたぬくもり、彼女、俺だけのかわいいやつ。それが、俺だけのものじゃないと知ったときの俺の失望。虚。あのときから、俺はおかしくなったんだ。女は誰とでも寝るんだ。神格化していた女性という存在を否定し、否定することでようやく自分を維持したんだ。
あとは、思い出の通り。不信感。どっかのオヤジとも寝たんだろう。あいつとも寝たんだろう。挿れられて声出してたんだろう? その甲高い声を、他の男にも聞かせたんだろう?
種の維持という遺伝子のどこかが悲鳴をあげた。それをやわらげるために、俺はお前にひどいことをした。手紙も出さなくなった。知らない街で置き去りにした。「いきなり後ろから」とお前が笑顔で言う。「ソレハホカノオトコニカ?」俺は死にそうだった。とにかく離れたかった。お前が好きだったが、お前が他の男とSEXするのを認めたくなかった。逃げ出した。置き去りにした。叫びたかった。俺は、俺であることを守りたかったから、お前から逃げた。俺からも逃げた。憤慨という態度がでた。お前は、本当は俺とのことを言っていたのだと、今は思う。でも、そのときはそれで頭がいっぱいだった。戻ってきたお前が、とってもうれしかった。謝って、すませたかった。愛してた。
SEXは気持ちよかった。最高だった。気持ちいい声を出すお前。キスをする。とけていく。金の無い俺は何も出来なかった。今の俺にはある。戻ってきて欲しい。やり直したい。けれど、それは遠い昔。
愛してたから、今もお前が残っている。取り戻したい俺がいる。どこかで出来ないかといつも思っている。今の俺なら、あのときのお前を受け止めることが出来る。それは、もう、遅い。
封印された屍を掘り起こした俺は、こうすることで痛みが少しでも柔らぐだろうか?
戻ってきて欲しいお前。
それが出来ないなら、消えてくれ。
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